第3章 銃の身、人の心~if~
フランス野郎は穏やかに笑みを浮かべていた。
その心中はきっと穏やかではないと思う。こいつは「マスターと共に生きる」ことを誰よりも大切にしていたから。守る為とはいえ、決して割りきれたことではない筈だ。
足元で白泡が遊ばれている。妙にくすぐったくて思わず息を洩らした。また来るとは思わなかった。こんな理由で。
「……じゃ、やろっか。ベスくん」
優しい笑顔がこちらを振り返る。終わりだ。
自然と笑みが溢れた。
君も笑うの?と影が首を傾げた。橙に覆われた黒い顔は、もう目を凝らさなければはっきりとは見えない。
あぁ、と短く返して手に馴染む自身を抱え直した。
だってあいつは、俺達の笑顔が好きだろう?
塩水に包まれて目を閉じた。自身は時が経つにつれ傷み、いずれこの人の身を保てなくなるのだろう。
この身を手放すことを許してくれ。
この身が木と鉄の塊に変わっても、誇り高き心はお前と共に有る。騎士の誓いを忘れはしない。
―――何が、あったとしても。