第4章 兄
「それでわざわざテンゾウお兄ちゃんが何用で?」
つい嫌味を言ってしまった。
「いえ、兄でなく、僕は今日1人の男としてここに来ました。」
「はい?」
「楓が今朝、泣き腫らした顔で来ました。本当に驚きましたよ。でも流石に僕も馬鹿ではないので、すぐわかりました。ここまで彼女を泣かせるのはカカシ先輩、あなたしかいない。」
「…そうか」
「そこで、僕は彼女の師としてでもなく1人の男として、彼女を守りたいと思いました」
「…え??」
今コイツ、何て……??
「僕、彼女が大事です。この気持ちは本当です。守りたいです。」
頭が真っ白になる。
「もう、楓を傷つけないでいただいたい。」
何を…一体何を言っているんだ…??
当たり前のように楓はそこにいると思っていた。
でも、そうか…テンゾウも楓が…
それは俺が決めることでも楓が決めることでもない、テンゾウの気持ちはテンゾウ次第で変わるから…
「それだけ言いたくてここに来ました。」
俺は自分の事ばかり…考えていたんだな。
楓の気持ちも、その周りの人の気持ちも、何も考えられていなかった
サスケを失った時だってそうだ。
サスケを失ったのではない、あの時の自分は自信を失っていた。
全部全部自分の事ばかり…
楓を、失いたくない…
「楓は辛くても一人で立とうとしています。僕はそれを支えてあげたい。
彼女は一人じゃないって、言葉だけじゃなくて、実際に温もりとして、実感してほしい。
それがもし、カカシ先輩、あなたを傷つける事だったとしても、です。」
誰かを傷つけてでも、守りたいもの、か。
それからテンゾウが何を話したのか、正直覚えていない。
教師として、彼女と接していれば
変わらず彼女は教師として、俺を好きだと言うだろう。
だが、テンゾウのように一人の男として楓の前に立ったら?
自己中心的で、嫉妬深くて、独占欲が高い。
おまけに余裕そうに見せておいて彼女の前じゃ余裕なんか全くない。
まだ俺は、俺を傷つけてまで彼女を迎えに行ける自信はなかった。