第2章 マリー様 七種茨
何かの間違いだ。
そう思いたかった。
でも、お前は確かに。
「………?」
プロデューサーとして、俺の前に姿を現した。
「…………えっと…」
困ったように、名前を呼ばれた彼女は笑った。
そうか。突然こんなこと言われたら驚くか。
何年前だった?初めて、彼女に名乗ったのは。今でも俺は思い出せる。たとえ彼女が覚えていなくても。
俺の記憶で、ずっとお前は生きてたんだよ。
だから思い出せ。俺を思い出してくれ。
「おっと!いきなり失礼いたしました!!それでは自己紹介といきましょう!!」
お前はいつまであそこにいたんだ?俺や弓弦がいなくたって平気だったか?
本当は、たくさんのことを話したかった。でもダメな気がした。
だって今の彼女は泥にまみれた軍人なんかじゃなくって、普通の女子高生だから。
「俺の名前は…………」
許してほしい。
再び、こうして名乗ることを。普通の女子高生として生きているお前にあの日々を思い出させてしまうことを。
それでも、俺はずっとこの瞬間を待っていた。
夢ノ咲の奴等にも、弓弦にも負けない俺の取り柄。
それは誰よりもお前を知っていること。
初めましてなんかじゃない、俺達の関係。
“幼なじみ”が、俺の最終兵器になる。