第4章 雪兎李様 紫之創
夜をさ迷う可哀想な子がいたとしよう。
その子が学生服を来ていたら?
なにか複雑な事情があるのかも。
お家でママが鍵を閉めてしまったとか、パパと喧嘩したとか。
そんな可哀想な子は助けられるべき。
でも。
でも。
「ちゃん」
ねぇ、創くん。
ボク。もう助けられた。君に助けられた。
「家、開かないんですか?」
「まーた鍵閉められちゃった。」
ボクらは笑える。ボクらは手を取り合って。
「不思議だよね。創くんといると何にも怖くない。何にも怖くない。誰かと一緒にいるだけでこんなに安心する。」
「僕もです。夜だって、何だって怖くないです。」
創くんの手が暖かい。
それだけで泣きそうになる。
「あーあー!帰りたくないなぁ。ママとパパ、許してくれるかなあ。」
「今日は何をしたんですか?」
「…テストの点があれでして」
ボクがそう言うと、創くんがクスクス笑う。いや、ボクからすると死活問題なんだけど。
「僕がわかるところなら教えますよ。頑張りましょう。」
「じゃあ、またアイドル科に行って良い?」
「学院じゃなくても、いつでも会いますよ。」
「だって学院でも会いたいし。…今日はちょっと我慢できなくてついやっちゃったけど。」
創くんがまた笑う。
「可愛いこと言ってますけど、そろそろ帰らなくていいんですか?おばさんもう探してるんじゃないですか?」
「いいの。創くんといるの。」
「ふふふ、じゃあもうちょっとだけ。」
ぎゅっと繋いだ手が暖かくて。
ボクの好きな人だけがボクを肯定してくれて、
ボクの好きな人だけがボクに話しかけてくれて、
ボクの好きな人だけがボクを見てくれて、
ボクの好きな人だけがボクの側にいてくれて、
ボクの好きな人だけがボクをボクにしてくれる。
例えば、そんな世界。
夢みたいな世界。
その世界に彼以外はいない。
僕と、彼だけの世界。
辛いことがあっても、ボクらは。
そんな世界で手を繋ぐ。