第2章 マリー様 七種茨
「なぜ悩む必要があるのです。答えを出したのならいいでしょう?」
赤になった信号を見上げながら弓弦くんは言った。
「………………でも」
「茨のことなんて気にしなくていいのでは?」
「いや、そうじゃなくって。今まで……仲良かったのに…」
もごつく私を置いて、青信号になるやいなや先に歩きだした。
全く、茨くんのことになるとこうなんだから……。
「知りませんよ。告白なんてするなら、もう元の関係になんて戻れないことくらい茨にもわかってるはずです。」
「………それでも、これで終わりは悲しいよ」
ようやく信号を渡りきったノロい私を、彼は睨むように振り返った。
「その中途半端さは、茨にとって毒ですよ」
やたらと棘のある言い方だった。
「………………茨くん、私のこと…嫌いになったかなぁ」
「あなたが好きだから告白なんてしたんでしょう?それで茨が勝手に嫌うならそれこそ気にするあなたが愚かですよ、。」
「……」
「あと一つ言っておきますが告白が嘘の可能性もございます。やはり私は気にする必要などないと思いますが?」
「うーん、やっぱそう…だよね?」
言葉が辛辣ではあるが、一応優しく対応はしてくれていた。
「やっぱり弓弦くんに相談してよかったよ。ありがとう。」
「かまいませんよ。何なら家まで送っていきましょうか?」
「ふふふ、私を襲った人の方が可哀想になるってことわかってるくせに!」
渇いた笑いが夜に響いた。
もしこの会話を聞いている人がいるのならば、背筋を凍らせて逃げるであろう。
「じゃあね、バイバーイ!」
先ほどのコンビニに戻ってから彼と別れ、軽やかな足取りで家に帰っていく。
茨くんの告白の意図は知れないけれど、今は気にしすぎないことが一番かもしれない。
「………………………あれだけわかりやすかったのに、気づいてなかったんですね…」
弓弦は遠ざかる背中に誰にも聞こえないような声で呟き、ほとほと呆れて家路についた。
いったい、これからどうなるのか。どうなっても自分には関係ないが。
(茨の嘘くらい見抜けるくせに、どういうつもりなんでしょうね。)
ただ一つだけ、謎が胸に残っていた。