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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第7章 【おまけ】城代家老・水崎一之進の憂鬱


「ああ…やっと、あの子より強い殿方が現れたというのに…」
「なんとかしてやりたいというお前の気持ちもわかるがなあ、菊」
一之進は夜着に着替え終わると、どっかりと寝床に胡坐をかいた。その正面に菊も正座をする。
「男の私から見ても、徳川様は竜昌に対してまんざらでもないご様子だ」
「では…」
「しかし菊、これはなかなかに難しい状況だぞ」
一之進は腕を組み、悩まし気に首をひねった。
「秋津城主だったころならまだしも、今の竜昌はただの織田家の家臣の一人だ。つまり三河・遠江・駿河を治める大大名であられる徳川様とは、身分が違いすぎる」
「ですが、かつての秋津なら敵対国ですが、織田様の配下になった今では同盟国ですし…」
「それよ。逆に敵対国であれば、同盟を機に…こう言うては何だが、人質のように室(妻)を娶ることもできようが、すでに同盟国であるなら、その必要もない」
「確かに…」
「徳川家と織田家の結束をさらに固めるというのであれば、つい最近 織田家家臣になったばかりの竜昌の立ち位置は弱い。せめて織田様の娘や縁故の者であれば話は別だが…」
「そうですわね…」
「万が一、徳川様から是非に、と請われれば成就せぬこともなかろうが、ふつう徳川様ほどのご身分のお方であれば、ご自分で勝手に室を選ぶようなことはなさらない。お国のため、お家のために、周りから勧められた、しかるべき家柄の姫君をお迎えするのがならわしだ」
菊は深い溜息をついた。一之進の言うことはいちいち尤もだ。
「一之進様、あの子は今まで城主として、自分のことは露ほども顧みず、秋津国のためだけに命を捧げて生きてきたんです。せめて、城主でなくなったこれからは…どうか…」
「わかっている。ともかく、できる限りのことはやった。あとは天とあの二人に、運を任せることにしよう」
胸元にすがりついてくる菊の肩を、一之進はそっと抱いた。
『あとは於大の方様が気付いてくださるといいが…』
小国といえど、若くして筆頭家老を務めてきた一之進であったが、今回の件に関しては特に自分の無力さが恨めしかった。

そのころ──────
水崎家の屋敷に忘れ物を取りに来た竜昌が、障子の向こうからこの会話を聞いていたことを、二人は知る由もなかった。
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