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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第5章 【家康・前編】


今思えば、あの一言は失言か?福音か?
「家康様も…ですか?」

─── ◇ ─── ◇ ───

『このお方は…どうも苦手だ…』
慣れた手つきで、傷口の汚れを拭い、薬を塗り、布をあててきゅっと縛る。
きつすぎず、緩すぎず、絶妙な力加減。
二の腕の擦傷を手当てしてもらいながら、竜昌はちらりと家康の顔を伺い見た。
少しばかり癖のある黄金色の髪の下に、相変わらずの仏頂面。
しかし、こうして竜昌が怪我をする度に部屋を訪れると、何も言わず、手際よく手当をしてくれる。時には塗り薬をわけてくれたりもする。
せめてもの礼にと、故郷の秋津国から取り寄せた山椒や山葵を手渡すも(たまに安土城で一緒に食事をするときに、自分の椀に山盛りのせているのを目撃しているので、好物なことは間違いない)『どうも』と無表情で答えるだけで、全く喜ぶ気配すらない。
竜昌の目からは、家康が何を考えているのかさっぱりわからなかった。
「終わり」
短く言うと、家康は使った道具をさっさと片付け始めた。
「ありがとう…ございました」
「…うん」
家康は目も合わさずに小さく答える。
いつか自分はこの御仁に無礼でも働いただろうか?と考えるも、思い当たるふしが全くない。竜昌が安土に連れてこられたときに、様子を見にきてくれたというが、竜昌自身は気絶して(ぐっすり寝て)いたので全く記憶がない。
その後も、城内で顔を合わす機会も少なく、すれ違っても無言で会釈をする程度で、日頃なにくれとなく竜昌に話しかけてくれる他の武将たちとは一線を画していた。
「何…なんか用?」
家康の冷たい視線が、その姿にぼーっと見とれていた竜昌を捉える。
「いえ、なんでもありません。失礼します…」
竜昌は床に手をついて深々と礼をすると、家康の部屋を後にした。

「ふう…」
安土城内の自室に戻る道すがら、竜昌は深い溜息をついた。
竜昌自身、早く安土に馴染みたいと思ってはいるが、家康はなかなか手ごわい相手のように思えた。
そこへ、廊下の奥から政宗が現れた。
「お、竜昌、傷はどうだ。部屋にいなかったから戻ってきたんだ」
「大丈夫です。家康様に手当していただきました」
そう言って竜昌が左の袖をまくると、先ほど家康が傷に巻いてくれた布がちらりと見えた。
「私より政宗さまのほうが…」
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