第17章 【信玄編・後編】※R18※
その声を聞いた信玄の腕が、ふと緩んだ。
「…」
身体を離した二人は、しばし無言のまま向き合った。
『ああ…この人は…私が本当に嫌なことは、絶対にしない人なんだ…』
最初の荒々しい抱擁も、探るような口づけも、必ずどこかに逃げ道は用意されていた。それを拒まなかったのは竜昌だった。
燃え立つような自分の感情を押し殺し、相手の想いを優先させる。そのとき、信玄が浮かべる切ない笑顔を、竜昌は何度も見てきたような気がした。
その、考え癖のようなものが、武田家当主としての育ちのせいなのか、長い逃亡生活のせいなのか、竜昌にはわからない。
一つだけわかるのは、目の前の男が、恥も名誉もかなぐり捨てて、命さえ投げ出して、自分のことを請うている、そのことだけだった。
せめて今、この時だけは────
「…信、どの」
竜昌は、安土で会った頃のように信玄を呼ぶと、両腕でひしと信玄の頭を抱きしめた。
「りん…」
それを合図にしたように、信玄の腕に再び力がこもり、竜昌の首筋に、信玄の熱い吐息がかかった。
その時、竜昌は鎖骨のやや下あたりに、ジリ、と焦げ付くような痛みを感じた。
「ンッ」
信玄は唇を離して、竜昌を見た。
ようやく暗闇になれてきた目に、ぼうっと浮かび上がったのは、竜昌の襟元からのぞく、赤い小さな花びらのような痕だった。
まるで所有者の証とでもいわんばかりのその痕を、信玄は愛おしそうに舌先でちろちろと舐めた。
「…く…ぅ…」
そのむず痒さと快感に、竜昌の脚の間がひくりと疼く。
信玄は右手を竜昌の背にまわし、着物の襟をつかむと、そのまま下へと引き下ろした。
竜昌の胸が露わになる。
長い間、さらしの下に隠されていたであろうその双丘は、夜目にもわかるほど白く滑らかだった。
信玄は竜昌の反応を確認するように、その先端にちゅ、と軽く口づけた。
「…ッ」
竜昌は声こそ出さなかったが、甘い吐息が鼻から抜けていった。
抵抗がないとわかると、信玄は吸い付くようにその突起を口に含み、舌先で転がした。