第17章 【信玄編・後編】※R18※
「なんでもかんでも自分のせいって考えるのは、君の悪い癖だな」
図星を指され、目を逸らす竜昌をみて、信玄は頬をゆるめた。
そして一呼吸つくと、うっとりとした眼差しで天井を見上げた。
「そういえば…あの夜祭、楽しかったな。君が晴れ着を着て、あの髪飾りをつけてくれて、本当に夢のように美しかった…今でも目に浮かぶよ」
「…」
「あそこの神様、戎様だったかな?ずいぶんと霊験あらたかなんだなあ。実は俺、あそこで『いつかもう一度君に会いたい』って願ったんだ。まさかこんな形で叶うとは思わなかったけどな」
竜昌は小さく息を呑んだ。
────私ハ、アナタガ無事、故郷ニ帰レルヨウ祈ッタンデス────
そのとき、涙の向こうに霞んで見える信玄の顔が、すっと真顔になるのが見えた。
「さ、これで俺の長話は終わりだ。この首もっていくがいい。信長が喜ぶだろうさ」
「…」
「そこの刀も君にやろう。来国長(らいくになが)、いい刀だよ。君が振るってもいいし、売ればいくばくかにはなる」
名工・来派の太刀と言えば、武将たちが競って求めるほどの業物だ。
うつむいた竜昌の長い睫毛の先から、ぽたりと涙の雫が落ちた。
歯を食いしばり、声もなく静かに泣く竜昌を、信玄はしばらく黙って見つめていた。
「ああ困ったな…実は俺、もう一つ重篤な病を抱えていてね。もうすぐその発作が起きそうだ」
眉をひそめる竜昌に、信玄が片眉を上げてにニヤリと笑った。
「【泣いている女子を見ると、抱きしめずにはいられない病】だ」
それを聞いて、きょとんとした目で信玄を見ていた竜昌は、やがて小さく噴き出した。
「─────くふッ」
「ハハッ」
「ふっ、ふふふっ…」
目から涙をぽろぽろと零しながら泣き笑う竜昌を見て、信玄も愉快そうに笑った。
「…それは、女子なら誰でも抱きしめるんですね?」
「いやいやそんなことはない。じゃあ訂正しよう」