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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第15章 【信玄編・前編】


「んー?どうした佐助、何を笑っている」
「いえなんでも…」
「ふっ、まあいい。…しかし先代の秋津城主も、罪作りなお方だ。あんなに美しい姫を世継ぎにするとは…」
「先代・藤生由昌殿には、男の御子がおられなかったようですね。それで幼いころから文武両道、才色兼備と目された竜昌殿を跡継ぎに…」
「残念ながら、男を見る目だけは養ってこれなかったみたいだがね」

信玄は、かんざしを渡されて、熟れた李のように真っ赤になった竜昌を思い出し、ふっとその口元を弛めるように笑った。

「女謙信と言われた不敗の猛将も、信玄様の手にかかれば、赤子の手をひねるも同然といったところでしょうか」
「そういや、不敗といっても秋津城は落ちたんだろ?」
「ええ、しかし戦って敗れたわけではなく、味方である高城の本軍に裏切られ、民衆ともども秋津城に取り残されたところを五千もの織田軍に包囲され、やむなく投降した、というのが事実のようです」
「ほう…」
「藤生殿は、自らの首と引き換えに、秋津の民を救うように持ち掛け、信長公はそれを承諾しましたが、藤生殿が自害しようとしたところを止めさせて、そのまま召し抱えられたそうです」
「なるほどね。あいつは強い武士も女も好きだからなあ」

そう言うと、信玄はまた思案顔に戻った。

『信長か…』

こういう時の信玄は放っておくのが一番、と幸村に言われたのを思い出し、佐助は音もなく席を立った。


─── ◇ ─── ◇ ───


そのころ安土城、竜昌の自室では。

「んー?んん?」

鏡とにらめっこをしながら、悪戦苦闘している竜昌の姿があった。
なにしろ姫らしく着飾ったことなど子供の時以来無かったので、かんざしの着け方ひとつわからない。

その時、

「竜昌ァー入るぞ!」

良く通る大きな声とともに、廊下とを隔てる襖が、パーン!と音をたてて開いた。



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