第13章 【秀吉編】 おまけ
信長は朝から不機嫌だった。その手には茶壺。中には──── そこにあるはずの金平糖のかわりに、ドングリが山ほど詰めてこまれていた。これで四つ目である。
竜昌と秀吉が城に不在の今、金平糖を片っ端から手に入れてやろうと、あちこちを探しまわった結果、すべての金平糖が、ドングリに変身していた。
竜昌が不在の間の金平糖は、きっちり日数分だけ渡されたが、もちろんそんなものは初日の夜までにすべて平らげてしまっていた。
先程 城下に走らせた家臣の報告では、城下中の金平糖がすでに買い占められているという。
「おのれ竜昌め…」
信長は、金平糖の管理を竜昌に任せたことを、ほんの少し(いやかなり)後悔した。
─── ◇ ─── ◇ ───
ちょうどその頃、温泉宿にて。
「っくしょん!」
竜昌がクシャミをした。
『誰かが噂を…?信長様、金平糖見つけちゃったかな…』
「おーい竜昌、早く来いよ。風邪ひくだろ」
「あ、はい、いえ、その…」
扉の外から、秀吉が呼ぶ声がする。扉の向こう側は、湯けむりが立ち込める露天風呂だった。
竜昌は脱衣所で襦袢一枚になり、その襟に手をかけたまま、もじもじと足踏みしていた。
「や、やはり、明るいうちからと、いうのは…」
「恥ずかしいのか?」
「はは、はい…」
「ふーん?」
その時、向こう側でバシャンという派手な水音がした。
「ウッ…傷が…」
「秀吉様!?」
慌てた竜昌が、扉を開け、露天風呂へ一歩踏み出す。
すると、扉の陰に隠れていた秀吉に、背中から抱え込まれ、捕らえられてしまった。
「アッ!」
「つーかまーえた」
秀吉は竜昌を抱え上げたまま、檜でできた湯船まで歩き、二人一緒にザブリと湯に浸かった。