第2章 【女城主編】※共通ルート おまけ
「私は奥方じゃありません!あの、ただの織田家の居候というか…」
「こ、これは大変ご無礼いたしました」
竜昌がかしこまって頭を下げた。奥方ではないとすると、この美しい姫は一体?
信長はけだるげに脇息にもたれながら、盃を持つ手で舞を指差した。
「こやつはな、生意気にも 何度夜伽を命じても拒んでくるのだ」
「あああ当たり前です!!」
口ごたえしつつも、舞は怒っているような、喜んでいるような、複雑な表情だ。
一方の信長が舞を見る目は終始穏やかだった。あの鬼と謳われた信長もこのような表情をするのかと、竜昌は感心していた。
いや信長のみならず、ここに居並ぶ武将の誰もが舞を憎からず思っていることは、その目線や言葉遣いから容易に察知できた。
『不思議なお方だ…』
突然、信長がくるりと竜昌に向き直った。
「では竜昌、今宵はそなたに夜伽を命じることにしよう」
「ええええええええええええええええええっ!!!」
思わず絶叫する竜昌。またしてもその場の全員の視線が注がれた。
信長の射貫くような緋色の視線からは、はたしてその発言が冗談なのか本気なのか見当もつかない。
居たたまれなくなった竜昌は、顔を真っ赤にして信長から目をそらした。
「っ…と…殿のご命令とあれば…」
「ダメダメダメダメダメダメ!絶対にダメー!!!!」
舞はそう叫ぶや否や、信長と竜昌の間に割りこみ、竜昌の肩を掴んでブンブンと揺さぶった。
「りんちゃんしっかりして!こういうことは命じられてするもんじゃないの!!想いあう者同士じゃないと!!」
「は、はぁ…?」
まるで姉が二人に増えたようだと、少し酔いのまわった頭で竜昌はぼんやり考えていた。同時に、舞の作り出す和やかな雰囲気のおかげで、かつての敵だった信長たちと同席しても、恨みや憎しみ等の負の感情が生まれてこないのかもしれない、とも感じていた。
「信長様も!タチの悪い冗談はやめて!」
「俺は常に本気だが?」
「もー!!」
顔を真っ赤にして怒る舞の姿に、宴席は再び笑いに包まれた。夜伽の件はうやむやになったようで、竜昌はほっと胸を撫で下ろした。
こうして安土城での最初の夜は更けていった──
<第一部 おまけ 完>