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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第12章 【秀吉・後編】※R18


とりあえず、竜昌は自分にあてがわれた布団を隣の間から持ってくると、秀吉の身体にかけた。それから秀吉の羽織を上から被せ、さらに舞から借りた打掛もその上にかけた。
浅い息を繰り返す秀吉の唇は、未だに真っ白だ。
竜昌は、意を決したように ひとつ息を吐くと、しゅるりと自らの帯を解き、小袖を脱ぐと、それすら秀吉の身体にかけ、自らは襦袢一枚の姿になった。
「し、し、失礼、します…」
竜昌は緊張でガチガチになりながらも、自らの身体を布団の隙間に滑り込ませ、傷に触らないように注意しながら秀吉の背中にぴたりと寄り添った。
短い呼吸を繰り返す秀吉の身体からは、ほとんどぬくもりが感じられなかった。
竜昌は、幼い頃 一緒に寝た姉がそうしてくれたように、冷たくなっている秀吉の足に、自らの足を絡ませた。
『南無八幡大菩薩様…どうかどうか、秀吉様をお救いください。私のことはどうなっても構いません。どうか…』
竜昌は秀吉の背中にしがみつきながら、心の中で祈り続けた。


それから、どれほどの時がたっただろうか、秀吉の背でウトウトとしかけていた竜昌は、秀吉の呻き声で目を覚ました。
「…秀吉様っ!?」
ガバッと身を起こすと、行灯の火はとっくに消え、辺りはほとんど何も見えなかった。しかし先ほどまで冷え切っていた秀吉の身体が、今度は燃えるように熱を帯び、汗ばんでいることだけは分かった。
「ウゥ…」
暗闇の中から苦しげな秀吉の声が聞こえる。
「秀吉様、秀吉様、しっかり!いま家康様を呼んで参ります!」
「ア…い…」
「秀吉様!」
「…ま、い……舞…」
秀吉の吐息に混じって、ハッキリと聞こえた舞の名前。


…パサリ。


竜昌は、ついに自分の心臓が、花期を終えた椿のように、丸ごと冷たい雪の上に落ちる音を聞いた気がした。
熱を持った秀吉の身体とはまるで正反対のように、竜昌の身体からみるみるうちに体温が奪われていった。
やがて、心臓を失った胸の中心部は、永久に溶けることのない氷のように、硬く凍りついた。


「…秀吉、私はここにいるよ…」
竜昌は、暗闇の中 震える手で秀吉の手を探り当て、しっかりと握り締めた。
「舞…」
「ずっとここにいるよ…大丈夫…だからね…」
秀吉の手が、弱々しく竜昌の手を握り返した。
汗ばんだ秀吉の夜着に、竜昌の頬から 冷たい雫が落ちた。


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