第12章 【秀吉・後編】※R18
広前に集められた武将たちは、神妙な面持ちだった。
からくも魔の手から逃れた舞は、真っ青な顔で、上座の信長に寄り添っていた。
信長は舞の肩を片手で抱きながら、厳しい表情で広間を見渡している。
竜昌は、隣に座っている秀吉の顔を見ることができなかった。秀吉が、どんな目で信長と舞を見つめているのか、想像したくもなかった。
「それで?下手人は誰かもわからぬのか」
「はっ。偶然居合わせた私の手の者が舞を助けましたが、それで精一杯。もう一人は…」
光秀が口ごもると、舞の肩がビクリと震えた。おそらく、舞を守るために命を落としたのであろう。
そんな舞の肩を、勇気づけるように信長は強く握りしめた。
「光秀の忍がやられるということは、相当の手練れ…」
「おそらく相手もどこぞの忍かと」
「…」
再び、広間を沈黙が支配した。
「舞、なにか覚えているか」
信長が舞の顔を覗き込みながら、優しく問うた。
舞は震える声で、一生懸命に記憶を絞り出すように答えた。
「男たちは…少なくとも五人はいました。全身黒づくめで、いきなり私のことを路地裏に引き込みました。そして「お前が信長の側女か」と…」
「単なるかどわかしではなく、明らかに舞を狙ってますね」
「おそらく舞を利用して、信長様に対して良からぬことを企んでいるのでしょう」
「舞に手をかけたこと、地獄の底で後悔させてやる。草の根分けても探し出せ!」
「はっ」
ギリリと音がしそうなほど奥歯を食いしばり、信長が苦々し気に言うと、秀吉が間髪入れずに返事をした。しかし光秀だけは冷静だった。
「しかし信長様、相手が忍となるとやっかいです。相手は必ず、巧みに痕跡を消し、姿をくらますでしょう」
「おまえの探索網で何とかならぬのか、光秀」
「ある程度範囲が狭まれば…可能性はありますが、悪戯に探索の手を広げれば、今度はこちらが手薄になる危険性があります」
「クッ…」
信長が悔しそうに頬を歪める。舞のこと以外で、信長がこのような表情を見せることはなかった。