第11章 【秀吉・前編】
秀吉は廊下を歩きながら、爪が白くなるほど強く拳を握りしめた。
あとほんの少しで届く距離にいるのに。本当は、抱き締めて、撫でまわして、身体が蕩けるほど甘やかしてやりたいのに、竜昌に触れることすらできなかった。
これが舞だったら、何のてらいもなく、心ゆくまで撫でてやれるのに。
『何故だ…』
今頃 舞は、信長のもとへ帰り、信長と臥所を共にしている頃だろう。
秀吉は、すでに傾きかけた十四夜の月を見上げ、唇を噛みしめた。
─── ◇ ─── ◇ ───
そんなある日、安土城に激震が走った。
舞が城下へと使いに出ている最中、正体不明の男たちに拉致されかけたというのだ。
安土の武将たちが、緊急で謁見の間に召集された。
【秀吉編・前編】 完
※作者注
長くなりすぎたので一旦切ります。