第10章 【三成編】おまけ
慌ててぎゅっと目を瞑り、寝たふりをする竜昌。
三成がその顔を覗き込んでいるのが、身体の動きでわかる。
眼をつぶっているのに、さっき見た菫色の瞳がこちらを熱っぽく見つめているのが、見えるかのようだった。
三成が、書物を床に置く音がする。
だんだんと、その顔が近づいてくる。
三成の熱い吐息が、竜昌の唇に掛かる。
その時─────
「石田様、藤生様、夕餉の支度が整っております。広間の方へお越しください」
廊下の向こうから、家臣が呼ぶ声が聞こえてきた。
それと共に、三成の腕にこめられた力がふっと緩み、竜昌の身体は解放された。
「はい、今参ります」
三成は爽やかに返事をすると、長い指でひたひたと竜昌の頬に触れた。
「竜昌、起きて、夕餉の時間ですよ」
「う…ん」
さも今起きたように目をあけ、竜昌は改めて三成の顔を見た。
いつものように飄々としたその顔がほんの少し赤く染まって見えるのは、もう消えかけた夕陽のせいだろうか。
そして、さっき間近に感じた、あの熱い吐息は…
「さあ、参りましょう」
竜昌に手を差し伸べて、立ち上がらせると、三成は広間へ向かって歩き出した。
その背中は、心なしかいつもより、広く逞しく見えたのだった。
【三成編・おまけ/完】