第10章 【三成編】おまけ
【三成編・おまけ】
ぱらり… ぱらり…
どこかでかすかに紙の擦れるような音がする。ああ、書物の頁をめくる音だ…
ふと眠りからさめると、竜昌の身体は座った恰好のまま、柔らかな熱に包まれていた。
「ん…」
竜昌が薄く目を開けると、すぐ目の前には白いうなじと整った顎の線があった。
それが三成のものだと気付くまでに、少しの間があった。
「!!」
気が付くと、竜昌は胡坐をかいた三成に抱きかかえられるように、その身を預けて寝ていたところだった。
竜昌の腰から下には三成の羽織が掛けられ、三成はその上に手を置き、竜昌を抱いたまま書物を読んでいる。
『ど、ど、どうして…』
確か、柱にもたれかかって書をめくっているうちに、だんだんと眠くなって…
しかし今寄りかかっているのは、柱ではなく、三成の胸だ。想像した以上に厚く男らしい三成の胸板を着物ごしに感じ、竜昌は体温がカッと熱くなるのを止めることができなかった。
かといって咄嗟にどうすることもできず、思わず竜昌は身を固くした。
すると、それに気づいた三成が、うなされているとでも思ったのだろうか、まるで赤子をあやすように、片手で竜昌の腕をぽんぽんと軽く撫でた。
その大きな掌の感触に、竜昌の胸の奥がきゅんと疼いた。
空はもう暗くなりはじめており、安土城の天主の向こう側は夕焼け色に染まっている。
三成の表情は竜昌からは見えないが、長い睫毛の先だけが時々動くのが見える。夕陽に透ける睫毛がキラキラと輝く様に、竜昌は一瞬、時を忘れた。
そのとき、ふと竜昌の頭に柔らかいものが触れた。
それは小さく首をかしげ、愛おしそうに竜昌に頬ずりをする三成だった。
「ァ…」
その優しく包み込むような愛撫に、竜昌の喉の奥から思わず小さな声が出てしまう。
『しまった!!…寝たふり、寝たふり…』