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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第1章 【女城主編】※共通ルート


「りん…りん…ごめんね…」
「菊姉様?どうやってここに?」
りんというのは竜昌の幼名であるらしい。菊は高城国に人質として囚われていた、竜昌の姉だった。
「そちらにいらっしゃる明智様が連れ出してくださったの」
「あの大井とかいったか、家老の留守居に、織田の大軍が間もなく攻め入ってくるぞと脅しをかけたら、家臣どもが家財を集めて逃げ出すのに必死でな。人質の一人がいなくなったのにも気付かぬ程のお祭り騒ぎであった」
光秀がククッと小さく笑う。
秋津国のような小国が、大国への忠誠の証に人質を差し出すことは、この時代ではよくあることだった。
もし竜昌がいとも簡単に降伏していれば、菊は見せしめのために殺されていたであろう。
「藤生殿は、人質となっていた姉君の身を案じて自らのお命を差し出されるおつもりだったのですね。でもこれでその必要もなくなりましたね」
三成がホッとしたように、抱き合う竜昌と菊を見つめた。
「姉様よくぞご無事で…」
「りんこそ…辛かったでしょう…」
幼な子にするように何度も竜昌の頭をなでる菊。ようやく状況が飲み込めてきたらしい竜昌の眼から、涙が一筋二筋こぼれおちた。
その姿を見た舞まで思わずもらい泣きしている。
「別にあんたが泣くことないんじゃないの」
「だって…」
「あれ、秀吉様…?」
「うるさい三成」
眼のふちがうっすらと赤くなっているのを見られまいと、秀吉は顔をそむけた。
「さて…」
パチンと信長が扇を鳴らした。和んでいた空気が一瞬にして引き締まる。
「返答を聞こうか」
答えはわかっている、とばかりの余裕の表情で信長が訪ねた。
そのとき、ゴツンという重い音が謁見の間に響いた。
今まで抱きかかえていた竜昌の頭を、菊が片手で床に叩きつけるようにして平伏させた音だった。
「秋津の民ばかりか我ら姉妹の命までも救っていただき、お礼の申しようもございません!かくなる上はこの大恩に報いるため、身命を投げ打ち 織田様にお仕えする所存にございます!」
竜昌の頭を床に押し付けたまま、自らも平身低頭して、菊が叫ぶように言った。
「姉様…それ私が言おうと…」
名の知れた猛将である竜昌を手玉にとる菊を見て、信長をはじめ、居並ぶ武将たちもそのやりとりに大いに笑った。

こうして藤生辰昌は、織田信長の家臣となったのだった。

<第一部 完>
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