第1章 1
膨れて中身の詰まった頰が、今日は妙に憎たらしく見えた。
リスみたいになった顔を潰してやりたくなるのをごまかすように、俺の手がうろうろ動いて、結局一夜の鼻をつまむ。
「……!?……、!!」
口がもぐもぐ動くのが気持ち早くなって、ごくんと喉が動く。
「……ふぁぁ!ちょっとー、かいどーくぅ、くるしーじゃん!!」
「汚ぇ」
飯を飲み込み終わった途端に喋り出すから、一夜の鼻をつまんだままの手に食いカスがとんできた。
「手についたぞ」
「はぁつまぁでるからでしょ!はぁしてー!」
「何言ってるかわかんねーよ」
本当は大体何言ってるかわかってるけど、だからって素直に離してやる気持ちにはとてもならない。
かわりに、ぐりぐり鼻をひねりながら引っ張ってやった。……力加減は、十分注意しながら。
「いーたーいー」
「話聞いてねえからだ」
適当なところで手を離してやると、また頰が膨れる。……今度は、飯とは関係なく。
「海堂くんひどくない?」
「ひでえのはお前だ」
文句を言う一夜に、今日ばかりは言い返してやらないと気が済みそうにない。
「お前、いつになったら返事すんだよ」
真正面から目を見て返事を催促すると、ぶすっとした一夜の面が一気に赤くなった。
「あ、え、え……あぅ」
うつむきそうになった顔を両側からがっちり掴んで、こっちを向かせた。
「か、海堂くん……」
「俺は言ったぞ」
「ううー」
だんだん眉毛が下がって、目が潤み始めてもそのまま。動いてなんかやらないでいる。
「お前が好きだ、一夜。……返事しろ」
2週間も待ってんだよこっちは。
2週間前に告った。
いつも通り飯をたかりにきた一夜に、はっきり好きだと言った。
顔を真っ赤にして後ずさりながら「ちょっと待って」を繰り返してた一夜から返事も聞かずにおいてやった。
しかも2週間も待った。
……2週間も。
「2週間だぞ。もう十分だろ」
眉間にシワが寄ってるのがわかる。
ひでえ面だ。告ってる空気じゃねえな。
……だけど、もう待てねえ。
「どうなんだよ」