【YOI夢】ファインダー越しの君【男主&オタベック】
第2章 グレースケールではないモノクローム
そこにいたのは、無防備な表情でカメラを見つめている自分と、背中で心情を語る自分の後姿だった。
「参ったな…俺は、君にこんな油断してる所を撮られていたのか」
想像以上に高いオタベックの撮影技術に舌を巻く守道だったが、暫く考えた後で写真を保存袋の中にしまった。
ほんの気まぐれが生んだしがない自分と『英雄』な彼との「ピーテルの休日」。
それは陳腐な三文芝居にもならなければ、自分はハリウッドの主役どころか場末の劇場の脇役の器ですらないのだ。
「──まあ、いいさ。どうせ彼とはこれっきりなんだから」
未だ痛みの残る頬を押さえ直すと、守道は諦観混じりのため息を1つ吐いた。
「短期間で随分と変わりましたね。たとえ練習でも、常に誰かに見られていると意識するのは良い事ですよ」
ピーテルのリンクでの最終日。
プログラムの確認をするオタベックに、振付師は目を細めながら好意的な感想を述べた。
その時、視界に他の選手の取材をするマスコミのカメラが入り、オタベックは休日の守道との事を思い出す。
『サユリ』とは大違いの、大人げない減らず口の皮肉屋。
しかし、写真を通じて彼と過ごした時間は、本当に楽しいものだった。
──ただし、一部を除いて。
「…どうかしましたか?」
「何でもありません」
あの日、逃げるように滞在先に戻った後で写真を確認すると、カメラを手に微笑む守道の写真が真っ先に目に飛び込んできた。
ファインダー越しに見た彼の少年のような笑顔が、そのまま写真に収められていた事に、オタベックは何処か安堵すると共に不思議な感情が湧くのを覚えた。
もっと、彼について知りたい。
だけど、
(…馬鹿みたいだ)
所詮は、1日限りの偶然だったというのに。
気まぐれな彼の誘いに、自分はただ乗っただけ。
あの日別れ際に彼が言った通り、もう二度と会う事はないのだから。
(それなのに…どうして俺は、こんなにガッカリしているんだろう…?)
不意に左の頬にあり得ない熱を感じたオタベックは、無意識にそこへと手を当てると、目を伏せた。