第1章 1
「お前なんでこんなとこにいんだよ」
「ん?あー、バネじゃん」
「バネじゃんじゃねーよ。
いくらなんでも冬の夜中に浜に出るなよさみーよ」
ざかざか砂を蹴立てて、波打ち際の少し手前に座る恋の横まで走っていった。
新年がすぐそこに迫った真夜中の潮風は痛いくらい冷たい。のに、浜に座り込んで海を見ている恋は、申し訳程度のマフラーとぺらい上着を着たっきりだ。いくらなんでもこれは見てる方が寒い。
「お前何してんの?」
「んー?なんも。海見てるだけ」
ぼやっと答えるこいつの目は、半開きでいつものパワーがない。
眠い時ともなんかどうも違って、ちょっと不気味さすら感じた。
「お前変だぞ」
「わかってら」
「わかってんのかよ!」
「ちょっとさ、さみしーの」
唐突な一言に、つまずいたような感じになって、思わず恋の顔を見た。
「今年が楽しくてさ。
そっちはサエもいっちゃんもリョーもダビデもいて、葵ボーズが入ってきてさ。こっちはこっちで1年が入ってきて。
そんでいつのまにか夏が終わって、引退して、もう来年が来ちゃうなんてさ。
さみしーじゃん。
なんで今年がもっと続いてくれないのかなって思って、でも寝ちゃったり初詣行ったりしたらもうすぐ来年来ちゃうじゃん?
ここにいたら、除夜の鐘も聞こえないし、来年来なくてすまないかなって」
「……お前」
「そんな小難しいこと考えれたのかって思ったっしょ」
「バカなこと考えてんなって思ったよ」
「バカってなんだよ!」
目ぇ吊り上げて立ち上がった恋と目線が合うように、俺も真っ直ぐ向き合う。