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喫茶店にて

第1章 1


「最近ね、」
「ん?」
「音楽の『つや』とか『色』とかを意識しちゃって」
「……へえ?」
土曜日午後3時の、チェーンの喫茶店。
全国合宿以来のゆったりした時間、とりとめもない雑談の中で、ふと海が話し始めた内容に、周助は首を傾げた。

彼女がバレエダンサーである関係上、会話の中で音楽に関する話題は多い方だと思う。時には曲想や解釈についての話もーーそこまで高度なことは周助には正直わからないがーーする。
それにしても、今回のような曖昧な話題はあまりしたことがない。

「つや?とか、色?……どういうことかな」
わからないことをそのまま口に出すと、海はええとね、と言葉を繋ぐ。
「ええと。……バレエの先生がね。音楽にもとてもこだわりのある方で、この演奏家のこの曲ならこの表現、っていうのをすごく突き詰めて教えてくれるんだけど」

海が言うには、今まで「海にはこの演奏家」と言われていた人のCDを、最近使わせてくれなくなったらしい。
演奏家が変われば、同じ曲でもテンポやタイミングが違う。では、さぞ練習で苦労するかと思えば、
「すごく踊りやすくなったんだけどね」
「それは……海の踊りが変わったってことかな」
「そうね。そうだと思う。あまり自分ではわからないけど」
「そういうのを見抜けるのは、さすがプロだよね」
先生を褒めると、海はうん、と実に嬉しそうに笑った。
周助はその顔が好きだった。いずれ自然にその顔が見られるようになればいいな、と思いながら、今はさりげなく先生について話をしてはその笑顔のおこぼれにありついている。
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