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居間とちゃぶ台と漬物

第1章 1


「……ああ、本当に味が違うね」
ぽりぽりと、小気味いい音を立てながら佐伯が思わずこぼした一言に、真田と伊武が揃って頷いた。
「うむ、確かに」
「そうだなぁ……佐伯さんのとこは酸味がちょっと強くて、真田さんのとこはなんだろ、うまみが強い感じ?複雑でよくわかんないな」
「舌が鋭いな、伊武」
伊武の評に真田が目を見張り、どれもう一口、と漬物を口にした。

むさ苦しくも男三人が座卓で頭を付き合わせているのは、何も暇を持て余しているわけではない。
漬物談義で意気投合した妻三人が夕食を一緒に作るというので、完成までの間に近況でも話そうということになったのである。
そしてその世間話は、お茶請けがわりにと出された漬物によって別の方向へと向かうことになった。

「手の常在菌がどうとかって話だっけ?」
「そもそも味付け自体違うのもあるんじゃないの」
それぞれの前にそれぞれの妻が漬けたぬか漬けの皿。
一つ話題に、と漬物を融通し合って、味の違いを感じてしばし。
首をひねる伊武と佐伯に、真田は茶を啜りながら一言添える。
「うちのはぬか床が祖母から受け継いだものだと言っていたからな……」
「何それ有難い」
目の色を変える伊武。
そっと、真田の皿からもう一切れよく漬かったきゅうりを無断でつまみ、口に含む。
「おい、勝手に食べるな」
「……ああ、ごめん」
「俺ももう一切れもらうぞ」
「え、やだよ」
お返しに、と箸を伸ばそうとした真田から隠すように、伊武は漬け物を抱え込む。
「ゆつきの漬け物は俺の。……よその男に余分にやる分なんかないし」
「ハヂメのぬか漬けも余分はなかったぞ」
「……悪かったよ」
怒れる真田と渋々謝った伊武を見て、佐伯がくすりと笑う。
「二人とも愛妻家だね。
まあ、僕もさらの漬け物を余分にあげる気はないけど」
そう言って、またぽりぽりと漬物を味わいはじめる。
二人もそれに続き、座卓は静けさを取り戻した。

廊下で一部始終を見ていた妻たちがにやにやしながらお互いをつつき合っていたのは、また別の話である。
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