第12章 独占欲【黒シンR18】
それはインド洋での戦闘の後に起こった。
モビルスーツ格納庫に、アスランがシンの頬を叩く音が響く。
「戦争はヒーローごっこじゃない!」
頬を叩くと同時にアスランから恫喝され、シンはアスランを睨み付けた。
「自分だけで勝手な判断をするな!力を持つものなら……その力を自覚しろ!」
シンは拳を握り締めてはいるが、アスランに反論はせず、心の底から滾る怒りで体が戦慄いていた。
「シンっ!」
アスランとシンのやり取りを見ていた少女、はシンに駆け寄る。
「シン……大丈夫?」
シンの顔を覗き込むと、シンの瞳にはアスランへの憤りと、戦争がもたらす悲しみの涙が滲んでいた。
「俺は間違ってなんかいないっ!それなのにアイツはっ!!」
「シン、落ち着いて?シンは頑張ったと思う。利用されてた民間の人を助けて。でも……」
の言葉を聞いたシンは、自分の耳を疑う。
いつもシンの味方をしていたが、シンの意見を否定したのだ。
シンが周囲を見回すと、レイやルナマリアですらシンと目を合わせようとしない。
俺が間違ってる、のか?
いや、そんなハズはない。
そんなはずがない。
「!今の戦闘で左足のバランサーをおかしくしたみたいだ。すぐに機体整備をしてくれ!」
「あ、はいっ!」
アスランはにそう言うと、格納庫から出ていく。
はシンと話そうと思っていたが、機体の整備はの仕事。
アスランの指示を蔑ろにするわけにはいかない。
「ごめん、シン。整備が終わったら、すぐ部屋に行くからっ」
はシンの声を掛けると、セイバーの機体整備へと足早に向かっていった。
「……?」
シンから離れていくの後ろ姿を、シンは信じられないという目で見ていた。
いつだってシンの理解者で、味方だったが、シンから離れていく。
そんなこと、許さない。
シンの中に眠っていた黒い感情が、目覚めるように渦巻き、増殖していく。
は俺だけのものだ。
どこへも行かせはしない。
シンはの後ろ姿を見ながら、妖しく笑っていた。