第9章 おべんきょ
雪月が安土城に来てもうすぐ1ヶ月。
身体中にあった怪我も治りかけてきたし、城内を歩き回る(信長に抱っこされて連れ回される、又の名を秀吉との追いかけっこ)ことも増えた。
しかし、元気になった=一日中寝ている必要も無くなったという訳でして...
信長や秀吉が来ないときは完全に暇人になってしまったのである。
「うぅ~」
城内を歩き回ろうにも、まだ見知らぬ人間が多い安土城内。1人ではパニックを起こすのは目に見えている。
それに、過保護な秀吉が「傷に障るから」と言うから中々外に出してもらえない。
政宗や信長だって仕事があるからたまにしか来ない。
皆の仕事を邪魔する訳にはいかない。
結局、雪月の出来ることは縁側で日なたぼっこすることだけだったのだが、しかし最近、雪月にはある楽しみが出来た。
それは...
「雪月様、」
「あ、みっくん!」
雪月の目線の先にはいくつかの書物を抱えた三成が。
ちなみに「みっくん」とは、「三成君」の雪月語である。
「お身体の方は大丈夫ですか?」
「あい!」
「そうですか。なら、今日もはじめましょうか」
最近の雪月の楽しみ、それは三成との勉強会だった。
事の始まりは数日前、信長が雪月に渡した1冊の本から始まる。
「雪月、」
「あ、にいしゃま!」
縁側で日なたぼっこをする雪月に声をかける信長。すかさずとてとてと足音をたてて雪月が近寄ってきた。
「なぁに?にいしゃま?」
「貴様にくれてやる」
信長が差し出したのは『御伽草子』と書かれた本。
「貴様の暇潰しに丁度良いと思ってな」
「...にいしゃま、」
「ん?どうした?」
「これ、なぁに?」
(しまった)
ここに来る前はまともな生活をしてなかった雪月。勿論、教育らしい教育も受けてない。文字だって読めないし、本が何なのさえ知らない。
そのことを信長はすっかり失念していたのだ。
「ふぇ?ちょっ?にいしゃま?」
信長は雪月を抱き上げるとすたすたと歩きだした。
その途中で、政宗とすれ違った。
「お、雪月に信長s「政宗、来い」ぐえっ?!」
信長はすれ違い様に政宗の襟首をしっかりと握り、そのままどこかへ連行した。