第8章 やくしょく
皆様はお気づきだっただろうか?
前回の章で雪月が政宗のことを『ましゃ』と呼んでいたことを。
いつの間に仲良くなったのか?
それは、金平糖の騒動からほんの2、3日程遡る。
IN雪月の部屋
「雪月、入るぞ」
一声かけて雪月の部屋に入る政宗。
「!」
雪月は数日前、彼が金平糖をくれた人物だということは覚えていたらしい。秀吉のようには警戒されなかったが、まだまだ半信半疑のようで尻尾の毛並が逆立っている。
(やっぱまだ警戒されてるよなぁ...当たり前か)
しかし、そんな雪月ともっとお近づきになるための秘策を政宗は用意していた。
その秘策とは...
「ほら雪月、これ食うか?」
羊羮である。
他人(つか秀吉)に対して怯えていた雪月が少しだけなついてくれる切っ掛けになったのが金平糖だったのだから、もしかしたら他の甘味も好きかもしれないと用意したのだ。
「これ、なに?」
「羊羮だ」
「ょ...?」
「まぁ食ってみろ。美味いぞ。ほら、あーんしろ」
雪月は戸惑ったように羊羮と政宗を交互に見つめたが、やがて意を決したのか口を開けた。
「(ぱくり、もぐもぐ...)...!」
恐る恐るといった感じで数回咀嚼した後、目を輝かせる雪月。
「どうだ、美味いだろ」
こくこくと首肯く雪月に政宗は笑った。
「これな、俺が作ったんだ。後、お前が何時も食ってる飯もな」
「え?!」
元々円い目を更に円くして驚く雪月。
「おいおい、んなに目開いてっと目玉落っこちるぞ」
「ふやぁ!」
政宗の冗談に真に受けたのか、雪月は慌てて自分の目をふさいだ。
「ははっ、悪ぃ、冗談だ。やっぱお前面白いな」
「?」
からかわれたことに気付いてない雪月は首を傾げた。
「ほら、まだ食うか?それとも金平糖の方がいいか?」
政宗の大きな掌の上には、色とりどりの小さな金平糖。
「...でも」
「ん?どうした?」
「......」
黙って俯いてしまった雪月に、政宗はあの時(第6章 きず を参照)のことを思い出した。