第6章 ひでしゃん
「...秀吉だ」
「...ぃ、で...?」
「ひ、で、よ、し」
「ひ、で...しゃん...?」
「...何だ?雪月?」
「...えへへ」
普通なら「ひでよしさん」なのだろうが、元々雪月は声帯の発達が遅い。あだ名みたいになってしまったが、秀吉には悪い気は起きなかった。
(あだ名で呼ばれるのも、悪くないな...)
先程よりも自然な笑顔で笑う雪月に、秀吉はそんなことを考えたのだった。
「...ぅ」
お腹が一杯になったせいで眠くなってしまったのか、目を擦る雪月。
「こーら、目を擦るんじゃない」
「あぅ...」
「もう少し寝てろ、な?」
そっと雪月を布団に横たえる秀吉。食事に家康の処方した薬が入っていたこともあり、直ぐに雪月は眠ってしまった。
「......?」
穏やかな寝息をたてる雪月の頭を軽く撫でてから立ち上がろうとした秀吉だったが、何かツンと袖を引っ張られた感覚がしたので見ると、雪月の小さな手が自身の袖をぎゅっと握っている。
(寝てる...よな?)
雪月は小さく寝息を立てて寝ている。起きる様子も全くない。
(放すのもなんか悪い気がするし、少しぐらいならいいか)
秀吉は雪月の隣に潜り込むと、その小さな身体をしっかりと抱き締めた。無意識なのだろう、雪月も秀吉のほうにすり寄ってくる。
(暖かいな...)
一方その頃。
「おい、そーいや秀吉はどうした?」
「珍しいですね、秀吉さんが軍議に来ないって」
「何かあったのでしょうか...?」
「...ちょっと探してくるか」
少しのつもりがかなり寝過ごし、軍議に来ない秀吉を不審に思った政宗が、雪月をしっかり抱き締めて寝ている光景を見つけるまで、あとどれくらいだろうか?