第6章 なんで
多少の覚悟はしている、つもりだった。
人生で恐らく初めてのキスは、とてもびっくりしてしまった。
そのまま触られて、よくわからない感覚に呑まれて、やっとされたことに気付く。
怖いとか、気持ち悪いとか、そういうのは思ったよりもなくて、ただ、改めてこの身体が自分の物かわからなくなった。
そういう感覚。
ふわふわと浮きそうになったり、鉛のように重たくなったり、キンキンに冷えたと思ったらそれは熱かったり、よくわからないことの方が多くて。
ただ、ただ、先生の言葉だけが、引っ掛かった。
「可哀想に」
それはどういう意味?
私がここにいることが?
先生にこういうことされていることが?
私そのものが?
なんでそんなこと言うの?
なんでそんな顔するの?
聞きたいことが山ほどあるのに、波に飲み込まれて何もできない。
海の底に沈むように、深く暗い闇が待っている。
そんな風に思わないで欲しい。
だって、私には、ここしかないから。
先生しか、いないから。
私、今、きっと幸せってやつだ。