第49章 【死柄木編】濁流の片隅
そう、彼は唯一私の望むモノを与えようとした。
「個性の抽出が終わったら、ゆっくり殺してあげる」
「……っ」
頭がふわふわしていた。
ただ、それに甘えたかった。
皆、止めようとしていたんだもの。
私はただ、死にたかったのに。
「うん…!はやく、はやくっ…」
ジンジンと薬が効いているせいか、身体が熱かった。
解放して欲しい一心で、見えない姿にすがる。
ざらついた手のひらが首に這うのをゆっくりと感じる。
数分してから、彼は大層がっかりと、ため息を吐いた。
私の身体は未だにおかしいくらい熱い。
少し身動ぎしたけれど、じんわりとナカから何か溢れそうだった。
本当にがっかりした様子で、私の胸元に顔を落とされる。
「全く、最悪だ」
「…え?なにが…?」
「君の『個性』は、抽出できない」
「……そう…」
自分の呪われた運命に、つくづく嫌気がさす。
マスクで見えないけど、彼が私の言葉で怒ったのはすぐにわかった。
「知ってたんだろ!?
僕を馬鹿にしてんのか!!?」
頭を痛いくらい鷲掴みにされ、眉を寄せてしまう。
「し、知らない…!
自分の個性も…わ、わからないの…!」
「なんだそれ」
痛みでやっとなくなった恐怖心が少しかえってくる。
「わたしは………私は……、自分がなにかわからない」
明確に今のことを一言にした。
ふっ、とおかしそうに笑われた。
「あっそ、じゃあ脅威はないわけだ」
マスクをさっと外され、冷たいコンクリートに落とされる音がする。
部屋は暗いのに、久々の光で眩しくて目を細めた。
「……わ、私を…、殺してくれるの…?」
「気が変わった」
「そ、そんな…!!!」
「まずはその使えないカラダを思う存分使ってやる…」
「…っ」