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ゆるやかな速度で

第6章 4.決断


「白石に1コケシやらないとな~」

1コケシ?と私は先生の言葉に首を傾ける。
そう言えば前に綾子ちゃんが渡邊先生は生徒が何か良い事をするとお手製のコケシを渡してくるとか話していた事を思い出す。
それの事なのだろうか?
実際に私は見たことは無かったから知らなかったがテニス部では有名なのだろうか?と思った。

「まぁ、コケシの件はええわ。とりあえずこれもらっとくな。今日の放課後からよろしくな」
「はい!よろしくお願いします」

私が先生の言葉に対して勢いよくお辞儀すると、笑いながら『そんなかしこまらなくてええで』と笑う声がしたので顔を上げる。
先生は笑いながら『真面目やな~』と言って私が渡した入部届を机の引き出しにしまってから書類を手に持ち始めたので私は職員室から出たのだった。

「あれ?【名前】?」
「白石くん」

職員室から出ると丁度入ろうとする白石くんに遭遇する。
手に小さな鍵が見えるので多分部室の鍵を置きに来たのだろうと思った。

「あの…今日から改めて宜しくね」

私がそう告げると白石くんは最初『え?』という表情をしていたが、ここが職員室前なので何のことなのか察したのか嬉しそうに笑ってくれた。

「ほんまに?」
「うん。色々と迷惑かけちゃうと思うけど…」
「そんなことあらへん!嬉しいわ。宜しくな」

そう言って白石くんが右手を差し出してくる。
どういう事なのか最初は分からなかったけれど握手だと気付いて私も右手を差し出す。
ギュッと繋がれた手のぬくもりが暖かくて、それが何だかとても照れくさかった。

「宜しくお願いします」

こうして私の四天宝寺中学テニス部マネージャーとしての日々が幕を開けたのだった。


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