第3章 2.不思議な人
お礼を言ってから暫く私達の間に沈黙の時間が流れる。
互いに何か話そうと口を開いては閉じてしまう。
何か話そうとは思ってはみても、何を話していいか分からず、また先程までの夢見が悪いので若干手が震えてしまっていた。
それに気付かれない様に私は両手にギュッと力を込める。
白石くんに対して怯えて震えていると勘違いされてしまわないか、それが不安だったからだ。
私が自身の両手に視線を向いていると、ふと視線を感じた。
下を向いていた顔をあげ、視線を感じた方へと目線を動かすと少しだけ悲しそうな表情で白石くんがこちらを見ていた。
「あー…やっぱり、俺がここにいると気ぃ使わせてまうよな」
「え」
白石くんの寂しそうな声音に驚いて、間抜けな声を上げてしまう。
最初は彼の言葉の意味が分からなかったが、「堪忍な」と謝罪をして私の前から――この部屋から立ち去ろうと立ち上がった白石くんをボーッと静観してしまった。
だけど白石くんが歩き出した瞬間にようやく理解した。
私が俯いて話さなかったから、拒絶したと思われた事を。
私は自分の行動が彼に対してどう映るのかまで考えきれていなかった事を、ようやく気づいた。
こんな行動、失礼過ぎる。
私は、謝らなければと私は白石くんを見る。
彼は丁度部屋から去ろうとしていて私に背中を向けていた。
「あの!」
私は自分でも驚くぐらいの声を上げた。
その声に私自身も驚いたけど、私よりも白石くんの方が驚いた様で、先程まで背を向けていたのに驚いた表情で私の方へと振り返っていた。
「その…さっきはごめんなさい。私…その…まだ上手く話せないけど……少しずつちゃんと話したいって思ってて」
私の辿々しい話も白石くんはジッと部屋の戸の位置で立ち止まって聞いてくれていた。
彼の表情は嫌そうでもなく、ただそこで黙って私の言いたい事を急かしもせずに聞いてくれていた。
ただそれだけの事なのかもしれない。
でもその行為は私にとって、まるで救われる事と同じだった。