第13章 11.視線
ガシャン!という大きな音がした次の瞬間に女の子の悲鳴が聞こえてきて私も白石くんも声のした方に視線を向ける。
そこには、フェンスにぶつかるような形でしゃがみ込む女子生徒がいて、近くにいた他の女の子たちがその子に近づいて話しかけているようだ。
先ほどの大きな音はフェンスにしゃがみ込んでいた女の子がぶつかった音なのかもしれない。
「ちょい見てくるな?」
白石くんはそう言ってコートの外へと駆けていく。
他にも忍足くんや小石川くんがそちらへと駆けていくのが視界に入る。
近くにいた女の子たちから彼らは何かを確認し、しゃがみ込んでいる女の子を白石くんが声をかけてからお姫様抱っこすると、先に校内の方へと忍足くんが駆けてゆく。
多分、忍足くんの足が速いから保健室が空いているかの確認を先行して確認しに行ってくれているのだろう。
それに続くように、少しだけ駆け足で、でも揺らさないように慎重さもある足取りで白石くんが女の子を運んでいく。
ぐったりとした表情で抱きかかえられている女の子は具合が悪そうな表情だけれども、そんな表情からでも分かるぐらいに顔が整っていて、きっと閉じられている目を開いたら、人の目を惹くほどの美少女なのではないかと思われた。
そんな女の子を抱える白石くんも、まるで映画のワンシーンかのように真剣な眼差しで保健室へと向かってゆく。
彼らの場所だけが切り取られた空間の様に思えた。
その瞬間にモヤっとした気持ちのようなものが自分の中に広がるように感じて、私は胸を抑える。
「心配やわ。大丈夫かしらあの子?……【名前】ちゃん?」
「……」
「【名前】ちゃん、大丈夫?」
「え、あ!はい、大丈夫です」
小春くんが声をかけてくれていた事に気付くのがワンテンポ遅れてしまい私は慌てて謝罪する。
そして、少し驚いてボーっとしてしまったと説明をして私は元々の雑草むしりの作業へと戻る。
先ほどの自分の中に広がったように思える感覚はすっかり私の中から消えていて、私は何だったのだろうと不思議に思いながら黙々とコート周りの雑草を抜き続けたのだった。
Next.