第9章 7.合宿01
「これでしまいやな」
白石くんの言葉は丁度、私の持っていた最後のボールを籠に戻した瞬間のことだった。
籠に向けていた視線を白石くんへと向けると彼は手にしていたボールを籠へと戻して籠をヒョイッと持ち上げた。
「籠は私が!」
「うーん……【名前】は、これお願いしてもええ?」
少し悩むような仕草をしてから白石くんはベンチを指さす。
そこには彼のラケットが置かれていた。
「ラケットを!?私なんかが…良いの?」
テニスをする人にとってラケットは大事な物だと思うのに、そんな大切な物を私なんかに預けても良いのだろうか?と驚いてしまう。
私は驚いた表情のままで白石くんを見ると、彼は『別に構へんで?』と笑いながら告げてくれた。
そう言われてしまうと無理に拒絶する理由もなく私は白石くんのラケットを抱きかかえるようにして持つ。
そんな私を見て彼はクスっと少しだけ笑っていた。
「そこまで大袈裟に持つもんでもないやろ」
「で、でも、大事な物だと思うから」
「…さよか。ありがとうな」
私がそう告げると白石くんが優しく微笑んでくれるから、やっぱり先程の様に私には彼が輝いて見えた。
そんな彼をボーッと見ていると『どないしたん?』と不思議そうに聞かれてしまったので私は慌てて意識をこちら側へと戻す。
『大丈夫。ごめんね』と謝罪をしてから2人で建物の方へと歩き出す。
これが合宿1日目の出来事であった。
この時の私はまだ彼への気持ちに気付くことはなかった。
どうして彼がこんなにも輝いて見えたのかわかるのはもう少し先の話であった――。
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