第1章 さよなら恋よ
「ユース様。今日はどちらにお出かけで?」
温厚な彼を引き留める。
王子だというのに直ぐに城下町に行きたがる。
カタカタと震えながら振り返り、愛想笑いをしながらピュー、と駆け出し逃げていく様はまるで泥棒がバレた盗人だ。
私の婚約者はユース・グリーンリーフ。その名前にピンと来てしまったのは6歳の時。初恋だとわかってしまった時にはもう遅かった。
私はマリア。マリア・レッドローズ。乙女ゲーム「恋は間近に語る者」の悪役令嬢だ。そして先程紹介した彼が、つまり、その乙女ゲームの攻略対象なわけで。
まあ、このまま行けば私は、まあ、良い方向には行かないわけで。その分岐点が今日なわけで。そして彼はもう行ってしまったわけで。今日が主人公ちゃんと会ってしまう運命の時であって。私はそれを阻止しなければいけないわけなのですが。
「……うっそ。」
私の言葉ひとつ聞かずに逃げてしまう彼。
急いで馬車で追いかけたのだが。もう遅かったらしい。