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【短編集】テニスの王子様

第4章 Secret feeling 【白石蔵ノ介】


【前日談】

「謙也な…付き合う事になったんやって…」
「え…」

放課後の教室に静かに俺の言葉が響く。俺の言葉を聞いて意味を理解した彼女は丸い瞳を更に丸くさせてから、静かに俯いた。
俯く時に微かに見えた瞳は伏せ目やった。
教室に静かに響く彼女のすすり泣く声を聞いて、俺は少しの罪悪感とジワジワと己の中で広がっていく高揚感に酔いしれていた。

彼女との出会いは2年時に同じクラスになった際に、たまたまグループ学習で同じになったのが切っ掛けやった。
地味という程でもないが特別派手でもない彼女はクラスでは特別目立つような子ではなかった。
そんな彼女に対する印象が変わったのは、グループ学習の時の意見交換の際やった。
皆が適当な事を言い、やる気のなさを発揮させる中、どないしてまとめようかと俺が思案している時におずおずと自身の考えを述べてくれたのが彼女やった。

正直驚いた。
あまり話す印象もなく流れに任せるようなタイプかと勘違いしとった俺はこれが切っ掛けで彼女に興味を示した。
グループ学習後には彼女とはあまり接点もなく、ただ何となくクラスでふとした時に彼女を目で追うぐらいの関係やった。
自然と彼女を目で追えば彼女が優しく気遣いが出来、落ち着いた女の子だと知れた。
そこからはやはりまた目で追うだけの日々やった。

それでも彼女を見る度に胸に静かに広がる感情を無視することなんて出来へんかった。
あぁ、小春が昔に言うとったことが分かったとこの時初めて自身は恋に落ちたのだと自覚した。

でも特にこの時の俺は行動せんかった。
時期も時期で部活に集中したいと思っとったし、静かに彼女を遠くから見る日々で彼女が誰かに恋をしている様には見えへんかったからや。
せやけどこの時の自分の行動はほんまにアホやったと思ったのは3年になってからや。
偶然にもまた同じクラスになれて内心喜んどった俺に突きつけられたのは彼女が謙也に想いを寄せているという事実やった。

――なんでや?
――なんで、よりによって。

と、思った事は幾度となくあった。
謙也は良い奴やった。
あいつも分け隔てなく人付き合い出来るええ奴やし、よく誰々が可愛ええなんて年相応の話題を出してユウジに焚き付けられて告白しては振られてなんて繰り返しとってるけど相手の女が見る目あらへんだけやんと内心思っとった。
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