第20章 掻き混ぜ零れゆく
「思い通りにならないからって、憎んで、バカにして、笑って……好きだったものを否定することで、自分を守っただけだ!オレの事だってそうだろ!?素面の時に聞けよ、この根性なし!」
「……っ、……黙れ!誰か、こいつを黙らせろ……!」
「オレを黙らせたって、あんたの人生変わりゃしねえんだよ!これが最後の忠告だ!こんなことはもう止めろ、了さん!…みんな、傷ついても、怖くても、自分自身に向き合って、欲しいものに手を伸ばしてんだよ……!傷つくのが怖いからって、自分をごまかして、手に入らなかったものを蔑んだって、あんたはハッピーになれない……!」
「黙れ!黙れ!黙れ黙れ黙れ……!!」
狂ったように叫ぶ了に、百は驚き目を見開く。
「……っ、…ああ、わかったよ…ああ、残念だなあ、モモ……。仕方ないよねえ……」
独り言のようにぶつぶつと呟いたあと、了は男達に向かって続けた。
「おまえたち。ありったけのアルコールを彼に飲ませろ。前後不覚になるまで泥酔させて、あそこのベランダから放り投げるんだ」
「………」
「秋の月は綺麗だからさあ。最愛の女性を奪われて、酔っぱらって、月を見上げて、悲しみに暮れて…。地上に落ちる男もいると思うんだよね。これが君の人生の終わり方だよ、モモ。ご感想は?」
「あんたの感想はどう?酸っぱい葡萄をまたひとつ増やして楽しい?」
「……。酒を飲ませろ。」
了の命令に、男達が次々と酒を瓶ごと百の口の中に突っ込んでいく。
「……っ、離せ……!離せよ……!…んんん……っ」
百の叫びが、室内に木霊した。
了の不気味な笑みと、男達の渇いた笑い声に、百の悲痛な叫びは掻き消され、秋の月の夜に小さく沈んでいった。