第15章 明日もキミに恋をする
「――そろそろスタンバイ、お願いします!」
スタッフから声が掛かる。
今日撮影する最後のワンシーンは、ベールアップをしてからキスをする、というたった数分のシーンだ。
たった数分。それで、夢のような幸せな時間は、終わってしまう。
―――でも。
役だったとしても、演技だったとしても。
キミのウエディングドレスがこんなに近くで見れて。
キミと、最後のキスができるんだから。
「……ねえ、零」
『うん?』
「すごく綺麗だよ。……きっと、世界中の誰よりも」
ボクの言葉に、わかりやすく頬を桃色に染めるキミ。
そんな仕草がどうしようもなく愛おしくて、胸がいっぱいになる。
これは、きっと――神様からの、最後のプレゼントなんだね。
「――……本番行きます!回してください」
「――はい本番、スタート3、2、1……」
緊張感の流れる現場で、ゆっくりと零のベールをあげる。
伏せていた長い睫毛をゆっくりとあげた彼女の瞳と目が合って、思わず心臓が高鳴った。
さっき言った言葉のせいか、彼女の頬は桃色に染まっていて。
なんだか、零がお嫁さんになってくれた夢を見ているみたい。
このまま時間が止まればいいのに、なんて叶うはずのない願いを胸に抱きながら。
彼女の唇に、そっとキスを落とした。
温かくて、柔らかくて、懐かしくて。
胸からこみあげてくる熱い想いが、今にも溢れそう。
何度も、何度も。
苦しいほどに焦がれてきた、この感覚が
これで最後だなんて。
信じたくないよ。認めたくない。キミはボクのもの。他の誰かになんて渡したくない。
そう、心が叫ぶんだ。
あの日、本当の事を言ったら変わってた?キミはボクの手を取ってくれてた?
自分から手を離しておいて、今更気が狂いそうなほどの後悔に襲われて。
一番大切なことを言えなかったのは、他の誰でもない、自分なのに。
決して叶うことのない、交わることのない、伝えることさえもできない、この想いに。
そろそろしっかりと、蓋をしなければいけないね。
もう、二度と―――溢れることがないように。