第13章 ロストロングラブレター
梅雨前線が通り過ぎ、青い空がいかにも初夏らしく澄みわたっている。
じりじりと音が聞こえてきそうな午後の陽光に目を細めながら、零は事務所のソファに寝転び呻くような声をあげた。
『あーつーいー………』
「まだ夏は始まったばかりだよ。エアコンは28度までだからね」
突然掛かった声に、零は寝転んだままくるりと顔を向ける。そこには事務所にやってきた万理が立っていて、にっこり微笑みながらこちらを見下ろしていた。
『28度はないですよ……せめて26度に……』
「十分涼しいじゃないか。駄目だよ、エアコンの風は喉によくないんだから」
『はあ……万理さん厳しい……』
零はごねるように言ってからごろん、と寝返りを打って万理に背を向ける。背を向けられた万理はというと仕方なさそうに笑ってから、持っていた書類の束で零の頭を小突いた。
「ほら、素敵なニュースと一緒に良い仕事持ってきたから元気出して」
『秋にFriends day控えてるのにまだ仕事入れる気ですか!?鬼ですか!?』
「贅沢な悩みだよ、本当。ほら、ゴロゴロしてないで起きて」
『せっかくの半日オフなのに……』
泣き言を言いながらのそのそと起き上がる零に、万理は手に持っていた分厚い資料を渡す。零はそれを渋々受け取ると、先ほどまで半分閉じられていた眠たそうな瞳を一気に大きく見開いた。
『………”明日もきみに恋をする”……?…え、嘘、待ってください……これってまさか』
「そう。零ちゃんの大好きな少女漫画の実写ドラマ化。しかも主演だ。ね、素敵なニュースだったろ?」