第12章 未完成な僕ら
「……狐野郎か。あはは、悪くないね。動物は好きだよ」
『……本当に何もわかんないんだね……可哀想な人』
そういう零の手をぎゅ、っと握ってから、百が小さく口を開いた。
「……バンさんに脅かされてるオレはいるよ。後ろめたくて、卑屈になって、今もまともに顔を見れないでいるよ。だけど、同じくらい、ユキさんとバンさんが並んで歌ってる姿を見たがってるオレもいるんだ。五年前と何も変わらずに」
「そんなもの、両立しないよ」
「両立しねえよ、それでも飼ってんだよ。どっちのオレも全身全霊で聴きたいし、全身全霊で歌いたいんだよ。オレだけじゃない、ユキも、零も、大和も、TRIGGERも、IDORiSH7も。心の中に嵐があって、自分のことなのに、自分の思う通りにいかなくって……誘惑や、見栄や、同情や、寂しさや、執着に振り回されて、まっすぐ進めない。それでも、掴みたい願いがあるんだよ。あんたの気まぐれで、手を突っ込んで、かき混ぜないで。オレたちは、スターなんかじゃない……。体中に、精一杯、銀紙貼っつけて、星のフリしてんだ。見上げてくれる人たちがいるから。せめて、その人たちの前では、笑っていたいから、飛べもしないのに、必死で、宙に浮かんでるフリしてんだよ」
「……なら、見えないピアノ線を切って、僕は君たちを落下させていくよ。地上にはアイドルの死体が積み重なる。さよなら、僕の憧れたち。さよなら、Re:valeのモモ」
『……そんなこと、絶対させない。あんたなんかに、星は落とせない。あんたなんかの手が届かないところまで、ずっと、ずっと高く飛んでやる』
そう言って了を睨みつける零の腕を、百は優しく引いた。
「……帰ろう、零。…無駄足だった。ユキと零とケンカまでしたのに……」
「酔ってるだろう?泊まっていく?」
「玄関に吐いて帰るよ。ごちそうさま」
「そう。二人とも、また遊びにおいで」
「二度と来ない。……二度と零に近づくな。今度零に近づくような真似してみろ。血のイヴ事件じゃ済まないからな」