第12章 未完成な僕ら
「千くん、百くん、けんかしないで!」
楽屋の扉を開け、岡崎が言えば。
「……してない」
「……してないよ」
返ってきた百と千の声に、岡崎ははあ、とため息をついた。
「はい。してた。空気でわかりますからね、そういうの。今日は何が原因ですか?」
岡崎の言葉に、百が困ったように口を開いた。
「ごめんごめん、たいしたことじゃないんだ!ユキはジェントルだからさ。オレのために気を使ってくれたんだよ!だけど、限度があるよねって話を……」
「僕が月雲に会いに行ったことが気に入らないんだろ」
「オレが怒ってるのはそのやり口だよ!行かないでって止めた時に、ユキがなんて言ったか覚えてる!?」
「覚えてない」
「行かせなきゃ解散するって言ったんだよ!よくそんなことが言えるよね?」
「先に引きとめたのは僕だし、言うことを聞かなかったのはモモの方だ。その時になんて言ったか覚えてるか?」
「了さんは何するかわからないから、危ないって……」
「違う。彼は精神攻撃が得意だから、僕はトラウマが多いから、絶対に泣かされて帰ってくると言ったんだ。先に僕を馬鹿にしたのはおまえだ」
「馬鹿になんかしてないだろ!?ユキを心配したんじゃんか!それなのに、解散するなんて……!」
「ああいえば言うことを聞くと思ったんだ。殴り合いになったら僕が負けるだろ。そのくらい、行かせたくなかっ…」
「次からはユキの車で跳ねろよ!その方がマシだ!解散って言われて、足がすくんで動けなかった。ユキが心配なのに、無意識に保身が先立って…。あんなみじめな思いをするのは、もうごめんだ!」
「それはおまえの都合だろ」
「……おかりん。今すぐオレを麻酔銃で撃って。芸能史上に残る猟奇事件を起こしそう」
「狩猟免許持ってないので無理です」
岡崎の答えに、千が続く。
「モモには出来ないよ。言っておくが、怒っているのは、おまえじゃなくて僕の方だからな。あんなイカれた男とよく付き合ってたな。根は悪い人間じゃないって話をずっと真に受けてた僕の善良さに涙が出るよ。いいか。二度と僕を騙すな」