第1章 泡沫のトロイメライ
「ねえ、零。約束するよ」
―――約束?
「うん。ボクがキミを世界で一番幸せにするっていう、約束」
―――私を、幸せに?
「ボクにしか出来ない事で、キミをいっぱいいっぱい笑顔にして、誰よりも幸せにしてあげる。だから――――――
だから――――・・・
prrr... prrr...
聞き慣れた着信音が、耳を掠めた。
重い瞼をうっすらと開けば、視界に真っ白な天井が広がる。
――どうやら、懐かしい夢を見ていたようだ。
まだ覚醒しきっていない体をゆっくりと起こしてから時計を見やれば、時計の針はまだ朝の5時前を指している。こんな時間に電話をしてくる奴なんて、考えるよりも前に一人しか思い当たらなかった。
耳元で煩く鳴っている携帯電話を手に取り、画面に浮かぶ文字にやっぱりとため息を吐いてから、通話ボタンを押す。
『……もしも』
《――やっと出た!!なんで電話出ないの!?心配したでしょ!?》
耳元でキン、と響く声に、きゅ、と目を閉じ咄嗟に携帯を耳から離す。こんな早朝から、よくもまぁここまで騒がしい声が出せるものだ。
『……朝からうるさいんだけど』
《零のことが心配なの、オレは!!引越し、今日でしょ?ちょっと待ってて、今から車出すから!!》
『ちょっと待って!いいってば。何度も言ったでしょう、手伝いはいらないって』
《嫌だ!!オレの気が済まないの!!もう準備してるし、人手は多いに越したことないでしょ!おかりんにも許可貰ったし、大丈――》
『全然大丈夫じゃない!!』
まさか、自分まで朝からこんなに大きな声を出すことになろうとは思わなかった。
零はそんなことを思いながら、顕著に顔を歪める。けれど、電話越しの相手にそんな表情が伝わるはずもなく。