第7章 心音に触れられない
「あれ、忘れちゃった?天にぃがおいでって両手広げてさ、零ねぇが」
『お、覚えてるよ、陸!説明しなくていいから!』
きょとん、と不思議そうな陸と、恥ずかしそうに頬を染める零を見てから、天ははあ、とため息をついて、両手を広げた。
「……おいで、零」
『…え!やるの!?ここで!?』
「……いいから」
『でも…』
「恥ずかしがることなんてないでしょう。幼馴染なんだから。早くして」
零は戸惑いながらも、ゆっくりと天に近づく。一歩、また一歩、と歩み寄れば、天の腕が伸びて来て、零の小さな体をそっと包み込んだ。
『……!』
「遅いよ、バカ零」
『ごめん……』
懐かしい匂いと、懐かしい体温。
それは天にとって長いこと、苦しいほど恋焦がれたあの感覚だった。心の奥底から愛おしさが込み上げてきて、つい時間や場所を忘れてこのまま酔いしれてしまいそう。けれど、そんなわけにもいかない。楽と龍、そして千からの視線を感じて、天はぱっと零の体を離した。
天から急に解放された零は、きょとん、とした顔で天を見つめてから、はにかんだように笑う。
―――ああ、ずるいよね。キミは本当に。
ボクの気なんて知らないで、そうやって笑いかけるんだ。
責任取れないくせに、もうこれ以上夢中にさせないで。
「………バカ零」
『え…?今ので仲直りできたんじゃなかったの!?』
目を見開いてあたふたと戸惑う零。そんな姿が可愛くて、つい表情筋が緩んでしまう。
「…おまえ、意外とかわいいとこあんのな」
ぼそり、と聞こえて来た声にハッとすれば、楽がこちらを見ながらにやけている。―――最悪だ、一番見られたくないやつに見られた。
『天は可愛いよ。現代の天使だもん。ね、陸』
「うん!」
「……やめて。恥ずかしげもなくそういうこと言わないで」
ナチュラルにそんなことを言うものだから、つい顔が熱くなるのを感じて、天はぷいっとそっぽを向いてしまった。
そんな天を見ながら、零は優しく笑う。
天とはこうして無事仲直りができた。次は・・・百と千の番。そう心に決めて、動き出したのであった。