第7章 心音に触れられない
―――けれど。それからも、百の声が出ることはなかった。
『……待って、百!!』
「………っ」
スタジオの廊下を、衣装のまま駆けていく百と零。後ろからはその二人を追いかけるようにして、天が駆けてくる。
「あれ……零ねぇに天にぃ?二人が追い駆けてるのは…百さん!?」
同じく収録に来ていた陸と一織が、三人の姿を目で追う。
「収録の前半はTRIGGERとRe:valeと零さんでしたよね。まさか、また声が……」
「…っ行ってみよう!」
陸と一織も、三人の後を追い駆けた。
* * *
「零ねぇ!天にぃ!百さん!」
三人が入って行ったのは、Re:valeの控室だった。
陸が勢いよくその扉を開けば、そこには俯いた百を心配そうに囲む零と天の姿があった。
「……っ、……また……、また、歌えなかった……」
百の悲哀に満ちた声が、控室のなかで静かに響く。
「あ……。あはは。夢かな?すごい嫌な夢だなー!零、オレのほっぺたつねってみて」
『……百……』
「わかった。OK。自分でやる。ひたたたたっ……っ!全力で痛かった。全力で現実。………どうしよう……」
「お医者さんはなんて言ってるんですか?」
「……どこも悪くないって。精神的なものじゃないかって。ふふ。オレのハートってやらかし系」
百の言葉に、一織が心当たりはないのかと尋ねる。
「ないよ!モモは元気だよ!オレが幸せじゃなかったら、誰が幸せだっつのってくらい、超ウルトラハッピーキングダムだよ。なのに、ね……」
言ってから、百は眉を下げながら零を見上げる。
零が右手で百の背中を優しくさすると、百は零の左手をぎゅっと握った。