第32章 裏切り者達
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鳥のさえずる声が聞こえる、まだ朝も早い時分に、私はコンコンと兵長の部屋の扉をノックした。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
部屋に入ると、朝日の差し込む窓際で兵長は椅子に腰掛けていた。まだ早朝だというのに、兵服のジャケットをかっちりと着こんで立体機動のベルトも装着されており、すでに準備万端だ。
兵長はあまり眠らない。前に一度聞いたことがあるが、ベッドで横になって眠ることはほとんどないそうだ。いつも椅子に腰掛けて、ほんの数時間眠るだけだという。
いつでも戦闘に移れる姿勢を貫いていることには尊敬の念を感じるが、そんな風にいつでも気を張り詰めていては、いつか身体を壊してしまうのではないかと心配になるのだった。
私は兵長の足元に膝をついて、昨晩巻いた包帯をくるくると解いていった。兵長の足の手当ては一日二回、朝と晩に行うことになっている。
包帯の下から現れた足首は、怪我を負った数日前から比べるとずいぶん腫れが引いてきていた。
包帯を取り終え、濡らしたタオルで軽く患部を拭ってから、医師に処方された薬を塗って、再度くるくると包帯を巻いてゆく。
「毎日ありがとう。おかげでずいぶんと痛みも引いた」
と、頭上から兵長の声が降ってくる。
兵長は歯に衣着せぬ物言いをするが、それと同じくらい率直にお礼を言う。良くも悪くも思ったことはそのまま言葉に出来る人なのだろう。