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【戦国BASARA】*月夜の盃*【R18】

第4章 恋の残り香




決意が変わらぬうちに、そのまま政宗殿に背を向けて、城を降りた武田軍を追いかけた。


──見えてくる幸村様の背中。

その紅い背中に、私は自分の中の忠誠を取り戻すように触れていた。


「お待たせしました。幸村様」

「おお紫乃! 戻ったのだな。・・・政宗殿とは、話はもう良いのでござるか・・・?」


─ドクン─

─ドクン─


「・・・はい。もう大丈夫です。幸村様。甲斐へ帰りましょう」


─ドクン─

─ドクン─


なんだこれはっ・・・。

鼓動が止まらない。

あいつのせいで、胸が張り裂けそうだ。


唇に残った、あの男の温もり。

かすかな血。

さっきまで命を賭けて戦っていた男のものとは思えない、甘い味。

すべてが残ったまま。


「紫乃・・・某、安心いたした」

「・・・何がですか?幸村様」

「約束したであろう。魔王を倒したのちは、何も変わらず、何も違えずに、紫乃は某のもとへ帰ると。・・・情けないことでござるが、それが果たされぬのではと、この幸村・・・一瞬不安になり申した」



何も変わらず。

何も違えずに。


・・・幸村様。

申し訳ありません。

あなたには決して言えませんが。


──私はその約束を、果たすことはできませんでした。



─『この俺を忘れられるもんなら、忘れてみな。』─


こうして甲斐へと戻っても、あの竜が、心の中から消えそうにありません。

私は唇に残る奴の痕跡を、今一度指でなぞっていた。



───でも私は決めたのだ。

幸村様についていく。

だから誰か、この熱を冷ましてくれ。

唇に留まっているこの恋の残り香を、早く消してくれ。


「参りましょう幸村様! お館様が待っております!」

「無論にござる!」





───これが私と、伊達政宗の、出会いと別れのすべてだ。


このときの私は考えもしなかった。

もう会うことはないだろうと思っていた伊達政宗と、再び出会うことになるなんて。

そしてこの身を焦がすような、激しく燃えあがる「恋」をすることになるなどと。

そんなこと、夢にも思っていなかったのだ。



─第一部 完 ─

(「月夜の盃2」へ続く)

→あとがき


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