第1章 奥州に忍ぶ
ここは甲斐、武田。
お館様に重大な任務があると仰せつかったので、私はいつになく緊張していた。
武田軍の忍としてもう何年も尽くしてきたけれど、私はまだまだ未熟だ。
特に隊長の佐助様には遠く及んでいない。
しかし今回の任は、佐助様ではなく、他でもない私が単独でご指名いただいたのだ。
「お館様。参りました」
「おお。来たか、紫乃」
呼び出された広間には、幸村様の姿もあった。目を輝かせている。
身分こそ違えど、幸村様は昔からの馴染みの友だ。
いつも気にかけてくれる幸村様は、此度の任務の言い渡しを見守ってくださっているのだろう。
「紫乃、心して聞くのじゃ。お主に重大な任務を与える」
「はい! 何なりと!」
「伊達の軍に加勢するのじゃ」
「なっ・・・」
だから、こんな頭の片隅にもなかった任務を言い渡されて、声を出さずにはいられるだろうか。
これに対し、私よりも先に反論の言葉を発したのは幸村様だった。
「お館様! 何ゆえそのようなことを!? これまで武田に尽くしてきた紫乃に、宿敵である伊達軍に加勢せよなどとっ・・・この幸村、黙って見送る気はございませぬ!」
そして幸村様の言う通りだ。
とてもお受けできない。