《モブサイ》サギ師のあなたに脱がされて (霊幻/R18)
第6章 温泉旅館でときめいて
マジかよ……。
知らなかった……というか、知りたくなかった。食事中になんて話をしてくるんだよ、おまえは。
思わず黙ると、ゆめが不思議そうに顔を上げた。
「霊幻さん? どうしたんですか? あれ……もしかして視えてませんでした?」
っ!!!!
『視えていない』
この言葉には敏感だ。
俺は颯爽とその場に立ち上がった。
「何を言っているんだ、ゆめ! もちろん視えていたさ! むしろハッキリ視えすぎて、早めのハロウィンではしゃいでいるウェイ系のガキかと思っただけだ! あ〜、そうかぁ〜! あれ、仮装じゃなくて霊だったのかぁ〜!」
「え……? ガキ……? でも、あの霊はどこから見てもおばあさんでしたけど――」
チッ。老婆の霊かよ。
顔には出さず、俺はヤレヤレと手を広げてみせた。
「まぁ、俺ぐらい超越してしまうと、霊も人間も若者も老人も似たようなもんだからな」
ゆめが目を丸くする。
「そ、そうなんですか!?」
いや、そんなわけないだろ。
なんだ、似たようなもんって。自分で言っておいて意味わかんねぇ。ゆめも少しは疑えよ。おまえ、そんなんじゃすぐに詐欺師に騙されるぞ。
俺は咳払いをして座った。
「とにかくもうこの話は終わりだ。せっかくの食事中に仕事を思い出すような話はやめようぜ」
「っ! そ、そうですよね! せっかくのお休みなのに! すみません! もう霊の話はやめておきますね!」
「ああ、すまんな。そうしてくれると助かる」
ふぅ〜、危なかった〜! 霊能力者じゃないとバレるところだった。
……いや、バレたからなんだ? 何を困ることがある? もうそろそろ言ってしまってもいいんじゃないか?
ゆめをちらりと見ると、無邪気に和牛にかぶりついている。
ゆめ……。
以前はおまえに正体を知られるのが怖かった。離れていくんじゃないかと不安だった。
でも最近、本当の自分を知らせたいという欲求が少しずつ湧き上がってきている。
たぶんこれは……この感情は……承認欲求ってやつだろう。
『それでも好き』とゆめに言わせて、愛されているのを実感したいだけなんだ。