《モブサイ》サギ師のあなたに脱がされて (霊幻/R18)
第6章 温泉旅館でときめいて
霊幻さんは重々しい表情でゆっくりとうなずいた。
「そうだ、とても危険だ……。これから行く温泉は地鶏料理と山菜料理、さらには和牛料理も名物らしい……。しかも温泉まんじゅう、抹茶ソフト、自家製スイーツの有名な店もいくつかある……」
「は?」
いきなりなんの話? 不測の事態は?
霊幻さんの額から汗が一筋流れ落ちた。恐怖で顔が引きつっている。
「それだけじゃない……。恐ろしいことに地ビールや地元産の果物を絞ったジュースも売りの一つだ。しかも流行りに乗ってタピオカ入りもあるらしい……。なんて危険なんだ……」
「れ、霊幻さん?」
「いいか、心してかかれよ、ゆめ! 全部食べて回ろうと思ったら、相当腹をすかせていなければいけない! 温泉に着くまでは絶対に何も口にするなよ! でないと後悔するぞ……!」
「…………」
もしかして霊幻さん、めちゃくちゃはりきってる……?
後部座席にふと目をやると、ガイドブックが何冊も積まれている。さらにその横にはプリントアウトした観光案内の束。ところどころに蛍光ペンで線が引いてあるのが見えた。
そっか。霊幻さん、私との旅行のために色々調べてくれたんだ……。
胸がジンと熱くなる。
今日を休みにするために、この一週間霊幻さんはいつもの倍以上の仕事をこなして残業もしていたのだ。
それなのに旅行の準備までこんなにしてくれるなんて。
「もう……霊幻さん……そういうところが……好き……」
「あ? 今何か言ったか?」
私は慌てて首を振った。
「い、いえ! なんでもないです。わかりました! 霊幻さんの気持ちを無駄にはしません! もう何も食べませんし、飲みません! トイレも行きませんし、居眠りもしませんから!」
「は……? いや、トイレは行けよ。何言ってんだ?」
「大丈夫です! 我慢します! もう一気に温泉まで行っちゃってください!」
せっかくの旅行。二人きりの本格的なデート。そして、一年記念日に誕生日。
絶対にいい思い出にしたい。大好きな霊幻さんと楽しく過ごしたい。
「よくわかんねぇが、おまえ、めちゃくちゃはりきってんな……」
霊幻さんは不思議そうに首をひねると、ゆっくりとアクセルを踏み込む。ETCレーンを通過した車はスピードを上げて温泉に向かった。