第10章 振りむいてよサファイア【O×S】
「……さとし~?どこにいるの~?…さとし~?」
遠くで、翔が俺を呼んでいる
鼓膜に心地よい、少しだけ甘えた声…
「…とし?…いるの?… …なんだ、寝てる…」
翔の気配がゆっくりと俺の側に来て止まった
ふんわりと、毛布を掛けてくれようとした手首を掴んで引き寄せた。
「あっ」
不意を食らって俺の上に倒れ込んできた身体を包み込んだ
「…智…起きてたんだ…」
「今起きた…」
「風邪ひくよ~」
「…へーき♪…翔が温っかいから♡」
愛しき塊を、胸に閉じ込めると、翔も俺に身体を預けてきた。
俺たちは、去年から郊外に中古住宅を購入して一緒に暮らし始めた。
大学までは電車とバスを乗り継いで1時間半かかるけど、周りには緑が豊富で、何よりも…
「夕ご飯の用意ができました」
「…ん~、翔が食べたい…」
「え~?だって、スープが冷めちゃうから…」
「温めればいいよ」
「お肉も…硬くなっちゃうし…」
「硬い肉も好きだし」
「…ここで?」
「そ」
「今?」
「そ」
目の前の首筋に顔を埋めると、大好きな翔の匂いがした。
新居には、大きな裏庭があって、その一角に苔のための温室を作ったんだ。
中に研究用の簡単な書斎もあり、そこに大きなソファーを置いた。
そこが俺のお気に入りの場所で、こうして翔を抱きしめて二人で横になっても、十分な大きさだ。