第10章 振りむいてよサファイア【O×S】
【大野】
ああ…大分早く着いちゃったな…
携帯で時間を確認すると、デジタルは10:39…
待ち合わせは11時だったから、20分もあるのか
仕方ないから、駅の壁に凭れて、携帯を開いた
イヤホンを耳に入れ、開いた動画は、『コケの世界』
知らない音楽に乗せて、ただひたすらにいろんな種類の苔を映していくだけの動画…
この前、友人の松本に見せたら
「これ、動画の必要、なくね?」
と言いやがった
もうあいつには、二度と見せてやらない!
『苔』と一言に言っても、素人にはうかがい知れない奥深さがあるんだ
世界中にはなんと、苔は2万種類以上あると言われている
日本だけでも、2500種類が生息しているんだ
ひとことじゃ~、とても語れない…
一生かけてもその全てを把握し分析するなんて不可能なんだ
松本なんかに分かるもんか///
じっと苔の動画に夢中になっていると、
「…お…のさぁ~ん!」
俺を呼ぶ声が…
顔を上げてキョロキョロ辺りを見回すと、
信号の向こうから、大きく手を振る……
「翔くんってば…あんな遠くから、全く…」
こっちに向かって一生懸命に手を振る姿に、
思わず笑みが漏れた
ホントにさ……可愛いやつ♪
横断歩道の一番前で
バタバタ足を踏み鳴らしているのは、
『櫻井翔』
4月から俺の研究室にやって来た変わり種だ
それまでは母校の研究室に残り、
一心不乱に蜂の研究をしていたのに…
そのまま残れば、
確実に日本最高峰の大学の教授まで上り詰めたはず…
なのに……
「大野さん!は、早いですね~」
「おはよう、翔くん…予定より早く着いちゃったんだよね~(^^;翔くんこそ、まだ時間まで大分あるよ?」
櫻井翔くんは、でっかいキャリーケースを引き、はあはあと肩を上下させて息を整えた